2019年6月21日
創立以来16年経つ食科学大学the University of Gastronomic Science(UNISG)にお招き頂き、講義をすることになった。その前に、チューターから学内を案内された。古い建物が威厳を醸し、恵まれた環境と食を愛する精神が、世界から人を寄せ付けるのだろう。残念ながら、気になったことがある。先ずは、案内された図書館の蔵書の少なさで、とりわけ日本料理関係はお粗末と言わざるを得ない。また、この大学の方針でもあるが、料理することに重きを置かない点だ。ここはあまたある料理学校とは違うと強調していた。世界中を旅して、その現地で学ぶことを大事にしている。チューターは、まるで旅行代理店のように忙しいそうだ。いわば、食グローバルスペシャリスト養成とでも言うべきか、いろいろな分野の先生も揃えているらしいが、広く浅く1〜3年のコースで学び、これまでにない新しい世界に貢献するそうだ。頭でっかちにならないように願うばかりだ。スローフードの提言者であり、この大学の創設者のCarlo Penini の思いと現実を埋めるには、まだまだ時間がかかりそうだ。今回は立派なキッチン教室で講義したが、チューターいわく、ほとんどこの教室は使われていないらしい。全ての火元がIHであるのも、スローフードが霞んだ。合理性や利便性を優先する教育は、ここには相応しくない。イタリアならでは、家庭的な食がもっと身近にあって欲しかった。建物脇にある農場も猫の額程度あったが、そこに学生の姿はなく、荒れ放題だった。食と農を汗をかきながら実践する場とは程遠く、学生たちもこぎれいな印象だった。食のエリートになりたいなら、現場をもっと知って欲しい。思い描いていた食の大学とは異なり、残念だったが、尚更、日本版食の大学構想の夢は膨らむ。